磔刑でも
未明、速足で二階に上がってくる気配を感じてひとつの予感を抱いている。部屋に入ってきたのは父で(今の父なら速足は無理だが)、ベッドまで近寄ってきて母が死んだと言い、手を擦り合わせる真似をして「数珠なあ」と言う。数珠を忘れるなと意味だと解釈する。ベットから半身を起したまま声を上げて泣くところで覚め、今母は施設でなくこの家にいるはずだと思って安心する。
もう五年半になる。こういう状態で生き長らえることと、あの日で終わることと、本人にとってどっちが良かったのかと思うことはよくある。「なんでもおもしぇごどものうで八十があ」と言う。なんの罪か業か、磔刑だと思わないこともない。ただ、家族にとっては確かに有難いことだと思う。
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