マラソンマン
今のことなのか、あるいは新潟にいた頃のような困窮した時代のことなのか分からないが、デパートで一階にスーツ姿で僕はいて、人を待っているわけでもなく、これからの予定もなく、そんな状況のようで、ふと目の前の店の背広を見ているうちに欲しくなり、二万円少しだったろうか、ズボンは六千円。財布の中身は見なかったが、二万円しかなく、買えるわけもないのだが、寄ってきた店員に背広とズボンを渡しながら、今手持ちが二万円しかなく、足りない分は後で持ってくるがいいかと聞くと、ちょっと頭を傾げてからいいと言う。包装のために店の中に店員が入っていった時、飾ってある同じ商品に陽が当たって、思いの外明るい色で、模様も入っているのが分かって、これは着れないなあと思う。貯金があるわけでもなし、なけなしの二万円であるとも思うと、追いつめられた気持ちが高まり、このまま逃げることにして、デパートの店内を走って外に出る。とにかく少しでも遠くへ少しでも速くと必死で走る。ここで走れなかったら日頃の練習の意味がないとさえ思う。
デパートは池袋の東武デパートのようだ。走り出たのは東口だろう。精神的には大学の最終年かもしれない。知っている連中は卒業し、ずっと会っていた人には会わなくなった時代。あるいはやはり新潟の頃かも。今だとも言えるけれど。ここで走れなければ日頃の練習の意味がない、と思うのは滑稽だがリアルだ。走って逃げるような状況になれば現実でも必ず思うだろう。そのために走っているわけではないのに。ダスティン・ホフマンの「マラソンマン」を思い出す。殺し屋に追われて夜の公園を走る場面。
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